タトゥーと入れ墨のちがい。日本の偏見と、入れている人の割合

タトゥーも入れ墨も刺青も、辞典の上では同じもので、ちがうのは響きです。明治から1948年まで法律で禁じられていた歴史もあり、日本で入れている人は20〜30代でも3%ほど、大学生でも慎重な見方が多数です。一方で2020年には最高裁判所が、タトゥーの施術は医師法の「医行為」に当たらないと判断しています。
この記事の内容(9)
辞典では、タトゥーも入れ墨も同じ意味
国語辞典で「タトゥー」を引くと、「入れ墨」とだけ書かれています。「刺青」や「彫り物」も、辞典では入れ墨の言いかえとして並んでいます。
英語の tattoo という言葉は、18世紀の後半にクック船長が、タヒチで「タタウ」と呼ばれていた習わしをヨーロッパに伝えたことから広まった、とされています。
ただ、受け取られ方には差があります。日本では「入れ墨」と聞くと昇り龍のような伝統の和彫りを、「タトゥー」と聞くと英字や花のような洋彫りを思い浮かべる人が多い、と観光学の論文にあります。作風ごとのちがいは「タトゥーの種類」へ。
| 言葉 | 読み | 使われ方 |
|---|---|---|
| 入れ墨(入墨) | いれずみ | いちばん広く使われる言い方 |
| 刺青 | しせい・いれずみ | 谷崎潤一郎の小説『刺青(しせい)』(1910年)でも知られる |
| 彫り物 | ほりもの | 江戸時代、自分から入れるものをこう呼んだ |
| 文身 | ぶんしん | 体に模様をしるすことを広く指す、研究の言葉 |
| タトゥー | tattoo | 英語から。洋彫りを思い浮かべる人が多い |
江戸では、刑の「入れ墨」と好んで入れる「彫り物」を呼び分けていた
江戸時代には、言葉の使い分けがはっきりしていました。「入れ墨」は、罪を犯した人の腕などに刑として入れる印のこと。自分から入れるものは、江戸では「彫り物」、上方では「入れぼくろ」と呼ばれていました。
刑としての入れ墨は、1720年に幕府が始めたもので、主に盗みの罪に使われました。明治に入った1870年に廃止されています。
一方の彫り物は、19世紀のはじめに、鳶や船頭などの職人のあいだで流行しました。歌川国芳が『水滸伝』の豪傑を描いた浮世絵が人気を集め、その画風は明治以降の彫り物の下絵にも大きな影響を与えた、と百科事典は説明しています。
地域の文化として受け継がれてきた入れ墨もあります。沖縄の女性が手の甲に入れた「針突(はづき)」や、アイヌの女性の入れ墨は、大人になった印や、亡くなったあとの幸せを願う意味を持っていたとされています。
入れ墨は1948年まで、およそ75年禁じられていた
1872年、明治政府は彫り物を禁じました。禁止はその後も、法律の形を変えて続きます。1880年の旧刑法では、入れることと、それを仕事にすることの両方が罰の対象になりました。1908年の警察犯処罰令でも、自分や他人の体に入れ墨をすることが禁じられています。
禁止が終わったのは1948年です。警察犯処罰令が軽犯罪法に改められたとき、入れ墨の項目は設けられませんでした。当時の説明では、入れ墨は一度入れると消しにくく、軽い罰を加えても意味がない。文化が進めば自然にすたれる習わしなので、放っておいても害はない、とされました。
研究者は、この長い禁止の時代が、入れ墨の後ろ暗いイメージにつながった可能性を指摘しています。1960年代ごろから広まった映画の中の人物像が、そのイメージを強めた、という見方もあります。
2020年、最高裁は「医行為ではない」と判断した
2020年9月16日、最高裁判所は、医師の免許を持たない彫り師が医師法違反に問われた裁判で、タトゥーの施術は医行為に当たらないと判断しました。これで彫り師の無罪が確定しています。
決定は、タトゥーが「装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗」として受け止められてきたと述べています。長いあいだ、医師ではない彫り師が担ってきた実情にも触れています。
裁判官の補足意見には、衛生上の危険を防ぐルールが要るなら、新しい法律で定めるべきだ、とも書かれました。日本でタトゥーを入れることが違法かどうかは、「タトゥーの前に知っておきたいこと」でも触れています。
日本で入れている人は、20〜30代でも3%ほど
2016年に、20〜50代の6,438人に聞いた心理学の調査があります。入れている人は、タトゥー(洋彫り)が1.6%、彫り物(和彫り)が0.7%でした。年代別に見ると、20〜30代のほうが多く入れています。
| 年代 | タトゥー(洋彫り) | 彫り物(和彫り) | 合わせて |
|---|---|---|---|
| 20代 | 2.3% | 0.9% | 3.2% |
| 30代 | 2.7% | 1.0% | 3.7% |
| 40代 | 1.2% | 0.7% | 1.9% |
| 50代 | 0.4% | 0.4% | 0.8% |
印象を分けるのは、年代と、図柄や大きさ
同じ2016年の調査では、入れていない人の87.9%が、いれずみは社会で「受け入れられていない」と答えました。86.2%は、まわりに入れている人が1人もいないと答えています。入れている人のほうが、「受け入れられている」と答える割合は高めでした。
鈴木・大久保(2018)が引く2015年の調査(田中ほか)では、入れる範囲が大きいほど、また答える人の年代が上がるほど、受け入れにくいと感じる人が増えました。和彫りは、タトゥーより受け入れられにくい傾向もありました。
若い世代でも、慎重な見方はまだ多数派です。2025年に大学生300人に聞いた調査では、タトゥーに「ネガティブな印象がある」が67%でした。一方で、数週間で消えるジャグアなら「入れたい」が41%と、消えるものには関心が集まっています。消えるタトゥーのことは「消えるタトゥー(ヘナ・ジャグア・シール)」にまとめています。
職場での見られ方は「タトゥーと仕事」に、温泉やプールで断られる理由は「温泉・プール・ジムの決まり」にまとめています。
アメリカでは3人に1人。海外では、もっと身近
海外では、入れている人がずっと多くいます。調べた年や対象の年齢がちがうので目安ですが、くらべると差の大きさがわかります。
アメリカで入れている人がいちばん多いのは30〜49歳で、46%でした。30歳未満でも41%、65歳以上でも13%います。同じ調査で、成人の8割が、この20年で社会はタトゥーのある人を受け入れるようになった、と答えています。
| 国 | 入れている人 | 調査 |
|---|---|---|
| アメリカ | 32% | 2023年、Pew Research Center、成人8,480人 |
| イタリア | 12.8% | 2015年、全国の7,608人 |
| 日本 | 2.3% | 2016年、20〜50代の6,438人 |
なぜ入れる?アメリカでは「忘れないため」がいちばん多い
昔の入れ墨には、所属や身分の印、魔よけといった、集団の中での意味がありました。いまは理由も図柄も一人ひとりが選ぶもので、ファッションの一つにもなっている、と研究では整理されています。
理由を数字で聞いた日本の大きな調査は、見つかりませんでした。参考に、アメリカの2023年の調査では、入れている人が挙げた理由は次のとおりです(複数回答)。
- 誰かや何かをたたえる、忘れないため: 69%
- 自分の信じていることを表すため: 47%
- 見た目をよくするため: 32%
同じ調査では、入れている人の24%が、1つ以上のタトゥーを後悔したことがある、とも答えています。後悔しないための考え方は「後悔しないために」へ。
好きだから、忘れたくないから。理由はひとつでなくていい
「好きな絵をいつも身につけていたい」も、「あの日のことを残しておきたい」も、本人にとっては同じくらい大切な理由です。人の目が気になるなら、ふだんは服で隠れる場所を選ぶこともできます。場所の選び方は「どこに入れる?」にまとめています。
よくある質問
- タトゥーと入れ墨は、ちがうものですか?
- 同じものです。辞典では、タトゥーは「入れ墨」の英語の言い方として説明されています。ちがうのは受ける印象で、「入れ墨」は和彫り、「タトゥー」は洋彫りを思い浮かべる人が多いようです。
- 「刺青」は、なんと読みますか?
- 「しせい」とも「いれずみ」とも読みます。意味は入れ墨と同じです。谷崎潤一郎の小説『刺青』は「しせい」と読みます。
- 日本人で入れている人は、どのくらい?
- 2016年に20〜50代の6,438人に聞いた調査では、タトゥーと和彫りを合わせて2.3%でした。2021年の別の調査(1,200人)でも「入れていない」が97%で、入れている人は数%と見られます。
- 入れ墨への偏見は、なぜ残っているの?
- 明治から1948年まで、およそ75年にわたって法律で禁じられていた歴史や、映画などで広まった人物像の影響が、研究者に指摘されています。2016年の調査では、入れていない人の86.2%が、まわりに入れている人が1人もいないと答えていて、身近に知る機会が少ないこともうかがえます。
調べ方と出典(12件)
2026年10月に、国語辞典と百科事典(コトバンクで公開されている版)、法学・観光学・心理学の論文、最高裁判所の決定の全文、調査の発表元のページを確かめて書きました。タトゥーを入れる理由を数字で聞いた日本の信頼できる調査は見つからなかったため、アメリカの調査を参考として載せています。
- デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典「入れ墨」(コトバンク)
- 改訂新版 世界大百科事典・百科事典マイペディア「入墨」(コトバンク)
- デジタル大辞泉「刺青」(コトバンク)
- デジタル大辞泉「タトゥー」(コトバンク)
- 生田勝義「犯罪と行為・社会・法益・法的関係(2)」立命館法学2022年3号
- 関谷大輝「入墨・タトゥーがある客の利用可否をめぐる現状と課題」観光研究34巻1号(2022年)
- 鈴木公啓・大久保智生「いれずみ(タトゥー・彫り物)の経験の実態および経験者の特徴」対人社会心理学研究18号(2018年)
- サークルアップ(RECCOO)大学生のおしゃれ調査(2025年8月、300人)
- 日本トレンドリサーチ「タトゥーに関するアンケート」(2021年4月、1,200人)
- Pew Research Center「32% of Americans have a tattoo」(2023年)
- Palese・Valent「Worldwide prevalence of tattoos」Annali dell’Istituto Superiore di Sanità(2025年)
- 最高裁判所 令和2年9月16日 決定(平成30(あ)1790)